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VCASIコラム『温暖化対策:削減率ではなく排出総量で』(VCASIフェロー、大阪大学社会経済研究所教授 西條辰義)

 政府の温暖化対策の中期目標は温室効果ガスの15%削減(05年比)だという。これは90年比だと8%減で京都議定書の目標とほぼ同じである。これでは、50年には現状の8割程度の削減という長期目標にはつながらない。
  そもそも、削減率での国際比較はほとんど意味をもたない。仮にA国における1人当たりの排出量が20トンとし、B国では5トンだとしよう。A国の削減率が40%、B国の削減率が20%なら、1人当たりの排出量はA国が12トン、B国が4トンとなり、A国の排出量はB国の3倍である。40%が20%よりも「立派」なわけではない。
  気候変動への温室効果ガスの影響は、排出総量で考えねばならない。日本政府の役割は、欧州連合(EU)が主導する世界の流れを、削減率から排出総量(ないしは1人当たりの排出量)に変えることではないのか。そうすることによって、基準年の選び方のあいまいさを回避することが可能だし、排出総量という本来の目標が主役になる。
  今回の中期目標の設定にあたって「限界削減費用(1単位=たとえば1トン=さらに削減する費用)」なる概念が基礎となった。日本のように省エネが進んでいる国でさらなる温室効果ガスの排出削減をするのは、省エネがそれほど進んでいない国よりも難しいと考えたのだろう。
まず先進国全体における温室効果ガスの排出量を決め、次に各国の限界削減費用が同じになるように、各国の削減率を求める。これなら、省エネが進んでいる日本の削減量は少なくて済む。 
先進国全体で排出に上限を設けると、排出がタダではなく、正の価格がつく。排出量取引市場では、この価格が限界削減費用と同じになるのが経済の理屈。市場取引の結果が「公平」というのである。
中期目標の策定にあたっては限界削減費用等を考え、いざ削減をデザインするときには企業の移行を踏まえたボトムアップで決め、排出に価格がつく市場を用いるつもりはないという政府提案は、論理が逆転している。 
  我々のモデル計算では、今回の中期目標程度なら、対策なしの場合の20年と比較して国内総生産(GDP)減少率は0.5%前後と微々たるものだ。脱炭素を目指す社会では、炭素排出に費用がかかることを通じて、産業構造が大きく変化せねばならない。中・長期的には、炭素を多く出す産業は消えざるを得ない。
&nbpsp; 世界に先駆けて産業構造を変え、炭素を排出しない技術の開発を進める。その技術や新たな製品を中国、インド、欧米など、各国の事情にあわせて供給する。こうして、気候変動の影響の少ない地球を将来に残すのが日本の選択ではないのだろうか。 

※朝日新聞 2009年7月4日(土)朝刊