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「読者にやさしい、本格的な実証分析を内容とした学術研究書」

「読者にやさしい、
本格的な実証分析を内容とした
学術研究書」

  

『ワークライフバランス』 
山口一男著  日本経済新聞出版社(2009).
 

評者:鶴 光太郎 (VCASIフェロー、RIETI上席研究員)

 『ワークライフバランス-実証と政策提言』
山口一男著
日本経済新聞出版社(2009)

山口一男『ワークライフバランス』

少子化問題はお金だけで解決しない! 働きすぎ、男女不平等など日本で依然際立つ「ワークライフアンバランス」の真因を、出産意欲や夫婦関係にまで分析対象を広げ鮮やかに解明。実効性ある改革案を提言する。 本書には、以下の皆様に推薦文を寄せていただきましたのでご紹介します。 

ワークライフバランスは21世紀の日本社会を活性化させる鍵だといわれてきた。そして、その理論的根拠を示す書物の出版が待たれていた。本書は、その必要性を実証的に示した待望の一冊である。この分野に関心をもつすべてのひとにとっての必読の書であることは間違いない。(大沢真知子(日本女子大学教授))

日本経済再生の真の処方せんはここにあります。ワークライフバランス、少子化、男女共同参画、なぜすべてが袋小路なのか、どこから解決していけばいいのか、さまざまな実証研究に基づいた、政治・経済関係者の必携の書です。(勝間和代(経済評論家、公認会計士))

わが国におけるワークライフバランスの欠如が、戦後高度成長期に発展した雇用システムを機能不全に陥れていると指摘。価値観を超えた著者独自の客観的実証分析の結果を根拠にした具体的政策提言は、日本社会の再活性化をねがう誰をもうならせる。(樋口美雄(慶應義塾大学教授)

 
 ワークライフバランス(仕事と生活の調和)ほど数年間のうちに日本社会において定着した言葉も珍しい。ワークライフバランスが今の日本人にとって重要であるという「総論」に異議を唱える人は皆無であろう。しかし、ワークライフバランスが達成できていないのはどういう人に多いのだろうか、そういう人はどうしたらワークライフバランスが改善するのだろうか。そもそもワークライフバランスは何のために必要なのか。こうした本源的な問いに答えられる人はそう多くはないと思われる。「分かっているつもりだが分かっていない」典型がワークライフバランスという言葉かもしれない。ワークライフバランスの問題に真摯に向き合ってみたいと思っている読者に格好の書籍が、シカゴ大学教授であり、VCASIのフェローも勤めている山口一男氏の手になる『ワークライフバランス-実証と政策提言』(日本経済新聞出版社)である。

 本書は山口氏がRIETI客員研究員として2003年から毎年夏を中心に研究を始め、公表した5つの研究論文を核とし、本格的な実証分析を内容とする学術研究書である。しかしながら、意欲ある一般読者が読みこなせるように随所に工夫がちりばめられている。最初と最後の章でそれぞれ、本書の目的・社会的背景、政策提言を論じ、実務者の問題意識にも十分配慮するとともに、実証分析の章についてもその結果を繰り返してなるべくわかりやすく説明しており、読者にやさしい「リーダー・フレンドリー」な本といえる。

 政策インプリケーションの立場から最も切れ味のいい分析を提供しているのが、「第2章 少子化の決定要因と対策について」である。特に、育児休業制度があれば働くことが出生率にマイナスに影響しないというファインディングはこの制度の重要度を評価する上で意義深い貢献である。また、夫の協力が第2子の、一人当たりの教育費・養育費が特に第3子以降の出生率の向上にとって重要であるという結果は実感にも合うし、子供手当のあり方を考える上でも示唆深い。

 単なる学術書であれば精緻な実証分析を並べるだけで十分かもしれない。しかし、本書は分析結果に忠実でありながら、第7章では意識的にprovocativeな政策提言を行っている。整理解雇基準のネガティブリスト化などはその一例であるが、実現性うんぬんということよりも、先入観やタブーを払いのけまずは自由奔放に思索すべきだという筆者の思いがひしひしと伝わってきた。また、豊富な知識や経験を背景とする国際的な視点も本書を魅力あるものにしている。例えば、本書でも繰り返し紹介されているオランダのフルタイム、パートタイム間の自由な行き来を認める制度は労働時間の柔軟性を高める決定打になりうる政策だ。

 一方、本書を読んで更に難しさを感じたのはワークライフバランスの目的である。本書では少子化対策がかなり強調されているようにもみえるが必ずしも明らかでない。ワークライフバランスの実現自体が目的であり考える必要はないかもしれない。ただ、随所で夫婦の会話や協力が大事という結果をみるとこれは家族や幸福のあり方と本質的に繋がっているように思えた。

 山口氏は10年ほど前に日本の学会に招かれた当時の印象を「宇宙のかなたの別世界にきたようだ」と本書の中で吐露されている。そこから限られた時間ではあったが、多くの研究者、政策担当者と交流を持ちながら研究を進める中で、彼の学問に対する厳しさ、スケールの大きさに圧倒されながらも、一人一人に対するきめ細かな温かい配慮に感激したのは筆者だけではないであろう。そういう意味で、山口氏はA.マーシャル(経済学者)が言った”cool head”と”warm heart”を併せ持つ社会学者といえる。ワークライフバランスに興味を持っているすべての読者に本書をお勧めしたい。


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