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オークション理論の基本的な成果がわかる良書;『オークションの人間行動学 最新理論からネットオークション必勝法まで』

オークション理論の
基本的な成果がわかる良書

『オークションの人間行動学 最新理論からネットオークション必勝法まで』
ケン・スティグリッツ著、川越敏司・小川一仁・佐々木俊一郎訳、日経BP社、2008年
(“Snipers, Shills & Sharls, eBay and Human Behavior”,
Ken Steiglitz, Princeton University Press, 2007)


評者:川越敏司(公立はこだて未来大学、VCASIフェロー)

『オークションの人間行動学 最新理論からネットオークション必勝法まで』
ケン・スティグリッツ著、川越敏司・小川一仁・佐々木俊一郎訳、日経BP社、2008年
(“Snipers, Shills & Sharls, eBay and Human Behavior” Ken Steiglitz, Princeton University Press, 2007)
本書は、欧米で最大のオークション・サイトであるeBayを題材に、インターネット・オークションでの売り手と買い手の行動をゲーム理論や行動経済学などから分析した一冊である。オークションの歴史から入札戦略、価格のつけ方、不正行為など数式を用いずに一般の人にもわかりやすく解説している。

Ken Steiglitz:プリンストン大学教授(専門はコンピュータサイエンス)

 インターネットの発達により、これまで市場取引とは無縁に思えた人々が個人投資家となり、巨額の富を築くようになってきている。ネットを通じた株式の個人売買やネットオークションでの取引は拡大の一途をたどっている。国内IT主要7市場の市場分析および市場規模予測を行った野村総合研究所によれば、2009年までにネットオークションの市場規模は2兆円にも達するという 。Yahoo!や楽天、アマゾンでのオークション売買はもはや人々の生活の一部になってきている。

 では、出品者である売り手は開始価格をいくらに設定するのが得策だろうか。買い手はいつどんなタイミングで、いくらの値段を付ければ最善なのだろうか。売り手がいくつものアカウントを使い、サクラになって競争をあおったり、虚偽の商品をつかませたり、こうした不正に対処する策はあるのだろうか。競り上げ式で、入札期限までに一番高い値段を付けた人がその値段を支払うというオークション形式が日本では一般的であるが、果たしてこれが売り手にとって最善のオークション形式だろうか。買い手を呼び込み、高い収入をもたらす、もっと他にクレバーなオークション形式は発明できないのだろうか。

 本書は、欧米で最大規模のオークション・サイトであるeBayを題材にして、ネットオークションにまつわるこうした疑問に答えようとする。本書には、オークション理論の主要成果がコンパクトにわかりやすく要約されている。ある条件の下では、多くのオークション形式で得られる売り手の収入の期待値は互いに等しい、という「収入同値定理」がその中心的な結果だ。買い手の危険回避性や買い手間の非対称によってこの定理がどのように修正を迫られるのか、それが本書の読みどころでもある。その際の主要な分析道具はゲーム理論だ。ゲーム理論による分析の結論はときに驚くほど単純なものだ。売り手は、小賢しくオークション形式をいじったり、買い手をだましたりせず、むしろ正直に商品情報を開示して買い手の信頼を勝ち取り、買い手を集めて競争を促進すべきなのだ。

 本書の対象としているオークション理論の適用先は決してネットオークションに限られないから、周波数帯の利用免許販売や排出権取引といった、オークションがこれから活用される可能性のある分野を理解する上でも役立つに違いない。本文には数式が無いので一般の読者にも理解しやすい。数学の素養のある読者が詳しく知りたい場合は付録を見るとよい。

 オークション理論は実験室やフィールドでの実験結果によってその現実的妥当性を厳しくチェックされている。実験によれば、合理的な経済主体を考える既存のゲーム理論だけではオークションという現象を説明するには力不足だ。オークション理論は、いまや人々の心理的要素を盛り込んだ行動経済学的な理論を必要としている。本書ではこうした研究の流れも見通しやすくなっている。難を言えば、内容を基礎的なものにとどめるために、共通価値オークションや組み合わせオークション、逐次オークションといった、より進んだ、しかし実践的には重要な話題がわずかに、あるいは全く取り扱われていないことである。だが、いずれこうした内容を含む本格的な解説書が現れることだろう。本書は、ネットオークションを愛好する人々にとってだけでなく、本格的な研究書や研究論文に触れる前に、オークション理論の基本的な成果を知るのにも有益なものであると思われる。

本書のより詳しい内容はこちらから。