3月28日に開催されたVCASI公開フォーラム『コーポレーション』について、VCASI主宰者でプロジェクトリーダーでもある青木昌彦氏、VCASIフェローの鶴光太郎氏、中林真幸氏に加えリサーチアシスタントの小野田拓也氏(司会)が集まって、今後のプロジェクト展開に向けた「振り返りセッション」を行った(実施日:2009年4月24日)。前回に引き続き、その模様をお伝えする。
【キャピタリズム】
青木 先のフォーラム終了後に、社会学と経済学の中間でおもしろい仕事をしているドイツのマックス・プランク・インスティテュート社会科学研究所所長ウォルフガング・ストリーク(Wolfgang Streeck)が” Re-Forming Capitalism: Institutional Change in the German Political Economy”という本を送ってくれたのですが、reformingのreの後ろにハイフンが付いているんですね。つまり、もう一度キャピタリズムをフォームするという話。われわれのフォーラムでも議論したことだけれど、20年ぐらい前までは、日本型、ドイツ型、アングロ・サクソン型などと分類して呼称していました。とくにヨーロッパではバラエティ・オブ・キャピタリズムという学派があってストリーク自身も、そういう論者たちと本を編集していたこともあったんですが、今度の本は一転、痛烈な批判なんですね、自己批判も含めたね。
彼はドイツモデルというのはもう消滅した、ドイツの共同決定というガバナンスのメカニズムやコーポラティズムという政治の枠組みがこの10年ぐらいの間にグローバル化の中で崩れていったことを述べています。その動力となったのは、資本主義なので、今一度キャピタリズムという概念で考え直そうというテーマなんだけれども、鶴さんが今回組織された日本のセッションでの、日本がどういうふうに変わっていくのか、変わりつつあるのか。日本自身が多様化しているというお話と非常に似ているんですよね。
1年前にケンブリッジ大学のサイモン・ディーキン(Simon Deakin)が来日して、VCASIのフォーラムでフランスについての実証研究を発表しましたが、これもわれわれと非常に共鳴するところがありました。即ち、資本主義はドイツ型、日本型、アメリカ型というのではなくて、認知の仕組みとして考えるといろんなコーポレーションの形があり、日本も、ドイツもその形態は多様化して、同じアメリカ国内でもシリコンバレーのような企業クラスターもあれば、いま大変な問題を抱えているGMといった旧来型の企業もあるというわけですね。今の僕の一つのキーワードは、convergence to diversity、多様性への収束ということで、多様性を単なる国家的な特性からだけでなく、それを越えて捉える必要があるんじゃないかなと思うんですね。そしてこれは、いまの経済危機の中で、個別の企業が今後どう危機に対応するのかを分析していく上でも、重要なんじゃないかなと思っています。
VCASIの活動目的の一つには、分野の異なる人たちのあいだの垣根を取り除くということにあって、私自身も認知科学の人たちと議論をする機会を持ったり、中林さんのセッションのように多様な国の専門家と議論することが大変勉強になりました。
加えて、できるだけジェネレーションの垣根を越えた対話もしたいということで、今回は小野田君(東京大学大学院法学政治学研究科修士課程、VCASIリサーチアシスタント)が、フォーラムの準備の準備でも、いろいろ助けてくれました。小野田君自身も議論に参加したけれども、印象はどうでしたか。
―――私自身の関心から言えば、青木先生がオックスフォード大学でお話をされたクラレンドンレクチャーでは、Corporations embedded in societyという話が出てきますよね。つまり、コーポレーションというのはそれぞれの社会に埋め込まれたものであると。だとするならば、それぞれの時代や、あるいはそれぞれの時代における社会的な変動とコーポレーションがどのように結びついているのかという問題が、この企画に参加したときの一番のモチベーションでした。今回のフォーラムで時代という意味においても、あるいはコーポレーションのさまざまなありようと社会との関係という意味においても非常に勉強になったと思っています。
具体的には、たとえば第2部で源河先生が11世紀ローマ教会の統治についてお話くださいましたけれども、そこでの問題の背景には、コーポレーションとしての教会と社会の関係があるわけですね。あるいは、第3部のお話の中でも、経済・社会的な環境変化とコーポレーションの関係というようなお話があって。そうした意味で、私は普段政治学という分野にいるわけですけれども、政治学者のみならず、今回の場合は経済学者、歴史学者あるいは社会学者というように、青木先生の言い方をすればドメイン、異なる領域との関わり合いを見ることができたことも非常によかったと思っています。
鶴 このプロジェクトが重要なのは、青木先生がコーポレーションという言葉を使われたところにあるんだろうなと。経済学ではファーム(firm)の方が用いられますが、ファームとコーポレーションは当然違うわけです。ファームは工場のように物的資本と人的資本で機械的に製品が製造されるというイメージがあるわけです。他方、コーポレーションは法人格のように法的な概念が関係していることでもわかるように、そこには単なる人の集合体以外のものが存在するし、アイデンティティの話が当然あると思うんですよね。そのアイデンティティみたいなものをどうやって一企業の中で作り上げ、永続させていくのかという点が、まさにコーポレーションとファームを分ける根本的なところであると考えます。
そのアイデンティティというのは、どこかに書いてあるというものでなく、そこに所属する人がまさに認知する、各人の心の中にあるし、その企業の中に存在共有するようなもので、その重要性が失われることは当然ないわけです。先ほどの多様性というのはやはりキーワードで、多様だからこそ一つの組織につなぎとめるアイデンティティが必要。だから、コーポレーションという問題についてもう一度、考え直さなくてはいけない。
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