Language: 日本語 English

VCASI公開フォーラム『コーポレーション』を振り返る(3)

 3月28日に開催されたVCASI公開フォーラム『コーポレーション』について、VCASI主宰者でプロジェクトリーダーでもある青木昌彦氏、VCASIフェローの鶴光太郎氏、中林真幸氏に加えリサーチアシスタントの小野田拓也氏(司会)が集まって、今後のプロジェクト展開に向けた「振り返りセッション」を行った(実施日:2009年4月24日)。前々回および前回に引き続き、その模様をお伝えする。 

VCASI公開フォーラム『コーポレーション』を振り返る(1)
VCASI公開フォーラム『コーポレーション』を振り返る(2)


【フィナンシャル・コーポレーション】



青木
 昨日、あるコンファレンスで外国の学者に、最近は何をやっているんだ、と聞かれたので、僕がいま書いている”Corporation in Evolving Diversity”(「進化する多様体としてのコーポレーション」というような意味)、という本について話をしたら、「コーポレーションにはフィナンシャル・コーポレーションも入っているのか」ってすぐ聞かれたんですよね。僕は冒頭で、ノンフィナンシャル・ビジネス・コーポレーションが対象であると限定したんですけれども、フィナンシャル・コーポレーションとフィナンシャル・マーケットの話しは避けて通れませんね、まさに今回の金融危機で突きつけられた問題ですよね。

  過去20年間、いろいろな理由でドル建ての金融資産に対する需要が世界中に出てきた。日本は低金利政策の中、日本国内には金融資産のいい投資先がない。中国の場合は、今急速に老齢化していく人口構成の国ですから、やはり国として貯蓄しなければならない。東南アジア諸国も、1997年のアジア危機のようになったら困るから、できるだけ外貨準備を持ちたい。さらに産油国からは巨額の剰余資産が出てくる。それらが全てニューヨークに流れ込んだ。そこで、池尾さん(慶應義塾大学 池尾和人教授)がうまく説明しておられるように、そういう需要に応えるための金融資産の供給が行われたんですよね。
  その結果、金融資産がどんどん膨張して、アメリカの家計が保有している資産と所得の比率が、歴史的には4くらいだったのが、ここ数年で6を超すまで膨張したものだから、アメリカ人は家を買う、クレジットカードで消費をする、学生ローンを借り高額の授業料を払ってロースクールやビジネススクールなどプロフェッショナルスクールへ行く、自動車も買う。それが回り回って、この日本に自動車需要という形で戻ってきた。低金利政策がぐるっと一巡したわけですよね。

  そこが、池尾さんの分析のすばらしいところと思うんだけど、そういう構造の中でニューヨークやシティで金融資産をバーチャルにデザインしていた人たちのインセンティブの歪みが生じ、リスクをヘッジするどころか、それを内生的に作り出して、バブルが破裂してしまった。その結果、いわゆるアメリカのベスト・アンド・ブライテストと言われていた人たちのプライドまでもが壊れてしまった。かつ、そういう人たちの作っていった金融資産はブラックボックスで、他の人はそれを信じて買っていたわけですが、この信頼も壊れたということになると、いわゆるフィナンシャル・コーポレーションの方のアイデンティティの危機があるんだと思うんですよ。これは、もう単なる金融問題という以上に、コーポレーションとしての危機でもあるんですね。
一方会社組織の多様化が進むと、非常に優秀な労働者、従業員をコアとしてやる企業は、それ以外は下請けや派遣を使うようになり、これはワーキング・プアということでフランスでも問題になっているし、ドイツでもこれまでの産業別労働協定・賃金協定からドロップアウトせざるを得なかったような企業のような問題が出てくると、これを政治がこれからいかに処理していくかという問題がありますね。

中林 フィナンシャル・コーポレーションについてですが、全てが同じように壊れているわけではなくて、傷の深さにだいぶ違いがある。たとえば、今回の金融危機で少なくとも当初はさほど打撃を受けなかった、ゴールドマン・サックスなどは個人プレーを抑制する、チームプレーを重視する統治の仕組みを持っている。その部門ごとに情報を共有する。隠した場合には罰則規定がある。その分リーマン・ブラザーズなんかに比べて出足が遅くなるデメリットはあるけれども、知らない間に過剰なリスクを抱え込むということは、他行に比べたら少なかったというわけです(John Gapper, “Goldman’s glory may be short-lived,” Financial Times 電子版、2007年12月5日)。ですので、信用が一様に消滅していくのではなくて、相対的によかったものが先に立ち上がって徐々に回復してくるんだろうなと思うんですけれども。

  コーポレーションとマーケットで言えば、グローバル・インバランスが一挙にほどけていく過程で大変なことになったというのは1929年も基本的には同じ。その対応としてアメリカも日本もドイツも違う道を歩み、その環境下でそれぞれの国に違うコーポレーションが育ってきた。その中で非常に効率的な認知のしくみを作ることで生まれる差異、他の会社との差異が超過利潤の源泉になっていく環境が作られていったわけですよね。そのメカニズムはこれからも同じで、他と違う効率性を実現できる認知のしくみを持っていないコーポレーションは滅びると思います。一方で、どんなに他の会社とは違う差異を生み出す認知システムを作り出したとしても、その裁定益を自分で取る場がなければ生きていけようはずもないわけですね。そういう意味では、資本主義が多様化していたかに見える50年代、60年代に、多様な資本主義を支えていたのはブレトンウッズ体制の存在だったわけです。即ち、非常に透明なマーケットがその外側に開かれていたということが、日本的なるものやドイツ的なるもの、1930年代以来、営々と積み上げてきた差異から、十分な裁定益を取る機会として機能していたはずなのです。
  ですので、いろいろな国がいろいろなことを試みるということは進んだほうがいいんですけれども、それが一方で、様々な形の保護主義につながって、国やコーポレーションの外側に広がる透明なマーケットを脆弱にするようなことになるとすると、それはわれわれが第二次大戦で十分に経験している失敗であるわけで、そこは深刻に考えなければいけないことなのかなと思います、

 そう。いま日本が後ろ向きになってきていることです。それは90年代からなんとなく始まっていたのですが最近非常に強まっていますね。今のような状況下、外に向かう気持ちをどんどんなくして、内向き内向きになってしまうと経済はうまくいかないでしょう。常に外に出て、そこで企業ももちろんやっていくし、国全体としてもその視点を忘れないようにしないと、健全な資本主義はたぶん発展していかない。外向きに健全に発展していくことで、非常に多様な資本主義の形が出てくるのだろうと思います。

【「コーポレーション」プロジェクトの今後】

―――さて、今回のフォーラムはVCASIのプロジェクト「コーポレーション」のキックオフという位置づけであるわけですが、先生は今後、どういう方向性で進めていかれるご予定でしょうか。

青木 僕自身はとりあえず、とにかく早く本を仕上げたいと思っているところなんだけれども(笑)。ただ、今回の三部作みたいな問題は、これからますます発展させなきゃならないですよね。いわゆる認知システムとしてのコーポレーションと市場との相互関係もそうですし。
  もう一つは、もはや否定できないグローバルな世界で、それぞれの過去の共有知識としてのカルチャーなども重要な役割を果たしていくわけだけれども、それは国際的な、世界的な一つの連結したシステムの中でやっていくわけですからね。そういう意味で、グローバル化はもう後に戻ることはできないわけで、その中で歴史的なものをどういうふうに考えていくのかという問題。
  3番目に、ガバナンスの再構築をどうするかという問題があって。ここは労働者問題や、格差の問題,政治の問題とも深く関わってくると思います。
  いずれにせよ、「コーポレーション」を一つのキーワードにして、現代社会を考えていく、それが重要なフォーカルポイントにはなるんじゃないかと期待しているんですけどね。

小野田 先ほど、グローバル化の流れは止まることはないだろうというお話がありました。おっしゃるとおり、たとえばグローバル化か保護主義かといった二分法的な思考が従来のシステムへの信頼が失われていく中で現れてきているわけですけれども、変化のなかで多様性が発生するという視点に立つと、その過程にはそれぞれの社会関係が存在している。ですから、変化のスピード、あるいは大きさも、セクターや政策領域、更にはコーポレーションのあり方ごとに異なるわけです。ですから、その変化を一方では細かく、もう一方では広く視野をとって見ていく必要があろうと思っています。
  また、市場という枠組みの規模が変化する時代が歴史的に何度も訪れたわけですけれども、その過程における諸領域の変化のスピードや諸権力の動き方を、他の方々と協働しながら見ていく必要性があるように思いますね。

 今回のプロジェクトは、青木さんが先ほどおっしゃったように、最初に理論、それから歴史があって、最後はグローバル化や国際的な視点があります。その三つは物事を研究する際の軸として基本的な視点だと思うんですよね。逆にその軸がしっかりしたら、いろいろなものが確かにわかるし、接近できると思うんですよ。こういう問題設定を続けていくことに大きな意味があると、確信しています。

  もう一つ申し上げたいのは、コーポレーションと社会との関係について、いま動きがものすごく速くなっているんですよね。不確実性が非常に高まっている中で、企業としては雇用調整が容易な非正規雇用を確保するなど、ある程度バッファを確保しておくことが非常に重要になっています。企業としてこの大きな環境変化に適応して、仕方なくとっている方策が、実は社会や政治から見たときにとても問題となるようなところが出てきている。そうすると、コーポレーション自体としての必然性や合理性といった当然の対応と、今この世の中で、政治等を含めた社会全体として、どうやって折り合いをつけていくのかというところに非常に難しい問題がある。かつては企業も成長して、マクロ経済も伸びて、それであらゆることが事後的にはうまく収まる世の中にわれわれはいたんですけれども、もはやそういう世の中ではなくなっているという時代認識を持って、根本的な対応を考えていかなければならないところまで来ているんではないかと思います。

  中林さんの説明を聞いて、ぼやけた白黒写真が次第にカラーになり、また動画になって生き生きと自分のところに伝わってくるような、そういう分析や視点をみんな求めているんだと思うんですよね。「あっ、こういう見方をしたらこういうことがわかるんだ」と、目から鱗が落ちるような、そういうVCASIならではの新鮮な視点を提供していけたら非常にすばらしいんじゃないかと思います。

青木 鶴さんから、理論、歴史、それからグローバル化というふうに言っていただいたのは、いい捉え方ですね。いまのグローバル危機を考える際に、一つ一つの国の分析をいくらやってもだめなんですね。グローバルな規模で、なぜそういう相互の関連の中から今のような問題が出てきたのかを考える。そうすると、各国間の競争や補完関係、あるいは各国が固有に抱えている問題、アメリカは過剰消費をどう抑制するか、日本は高齢化にどうやって対応するのか、中国ではこれから10年、15年かけて農村人口がさらに2億人程度、都市に動いて金場ならない。全く違う問題だけれども、やはりグローバル化という範疇の中で解いていかなければならない。このようなネーションステイトに特有な問題に対しても、コーポレーションというグローバルな規模で活躍している組織の競争が、重要ファクターに入ってくるわけです。そういう、壮大なビジョンをこれから持っていくということで締めたいと思います。

―――どうもありがとうございました。



VCASI公開フォーラム『コーポレーション』を振り返る(1)
VCASI公開フォーラム『コーポレーション』を振り返る(2)