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■第1部 コーポレーションの本質を再考する――認知システムとしての側面から

 報告: 青木昌彦・植田一博
 ディスカッション: 瀧澤弘和・谷口和弘

 第1部は、フォーラム全体を貫く問題関心を示すとともに、コーポレーションの理論的視座に再考を促すものである。まず青木氏が、認知システムとしてコーポレーションを捉え直す視座を提起し、企業をコーポレーションの一種とした上で、組織構造とそれに対応するガバナンスの類型を提示した。これに対する谷口氏のコメントは、青木氏の議論を株式会社研究の動向の中に位置づけ、問題提起を図るものであった。
次に植田氏は、認知科学の見地から、需要サイドから新しいアイディアが発生するメカニズムの研究結果を報告した。最後に瀧澤氏がコメントとして、青木氏・植田氏に共通する問題意識を抽出し、社会科学への応用可能性を提起した。

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 青木氏は広義の社団組織としてのコーポレーションを、自発的で持続的な自然人の結びつきであって、ルールに基づき、自己統治を行う組織であると定式化する。企業をコーポレーションのひとつの種類として位置付けたうえで、企業の組織構造(OA)を集団レベルでの認知システムと考えるとき、経営者の認知資産、労働者の認知資産、そして内部者の認知の道具としての物的資産の3者の関係から5つのOAの類型を抽出し、それぞれの類型毎に対応するコーポレートガバナンスの類型が存在する。このような枠組みから青木氏は、経営者が労働者を株主価値最大化の道具として用いるのでなく、その認知資産を活用する一類型の進化的重要性を指摘する。また、株主中心モデルへの収斂論に反駁し、多様化の傾向を強調する。<資料>

 このような青木氏の報告に対し、谷口氏のコメントは株式会社研究の観点から、(1)「歴史の終わり」として株式会社を捉えるウィッグ史観に対する批判的検討の必要性、(2)企業のケイパビリティの再配置メカニズムとしてガバナンスを捉えることの必要性、(3)変化に関わるダイナミック・ケイパビリティの重要性、(4)経営者の認知資産と認知的リーダーシップの親和性、を指摘した。

 続いて植田氏は、消費者の「想定外の使い方」によって製品開発の方向性が変わるメカニズムに関する研究成果を報告した。日本においてこのようなメカニズムが発生する製品は多く、その発生源は、アーリーアダプタを中心としたネットワークであるという。では、なぜイノベータは「想定外の使い方」をしないのか。植田氏はその理由として、イノベータは自身を専門家であると考えているため、ユーザの需要を結びつけるようなコミュニケーションが起こりにくいと考える。<資料>

 瀧澤氏のコメントは、認知心理学や心の哲学における近年の成果を援用しながら、青木氏と植田氏の報告に通底する問題を指摘する。具体的には、最近クラークによって提起された「拡張された心」のアプローチによれば、人間の情報処理活動は「人間自身が創り出してきた外部環境と人間の情報処理能力との共進化」として捉えられることになる。同時に、言語は認知の枠組みを構成する。青木氏と植田氏の報告は、コーポレーションを集団的認知の場ととらえたり(青木氏)、消費者間のネットワークを新しいアイディアが創出される場ととらえたり(植田氏)しているという意味で、このような新しい人間観と整合的である。瀧澤氏は、哲学や認知科学におけるこうした人間観の転換を、さらに社会科学に応用し市場観や企業観の転換に結び付けていくべきだと提起する。<資料>

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