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第1回 インクルーシブな社会を目指した障害者政策の構築プロジェクト研究会

2009年5月30日(土)、「インクルーシブな社会を目指した障害者政策の構築」プロジェクト、第1回の研究会が開催された。参加者は、フェローの川越敏司(公立はこだて未来大学複雑系科学科)、プロジェクト・メンバーの岡部耕典(早稲田大学文化構想学部)、川島聡(東京大学大学院経済学研究科)、中根成寿(京都府立大学公共政策学部)、そして佐藤孝弘(東京財団)であった。

 

はじめに、川越から論文"Economics, Game Theory and Disability Studies: Toward a Fertile Dialogue"の報告があった。
はじめに、近代経済学のような、近代の自律した理性的な個人を前提にする世界観をもった学問と、そうした価値観への批判をもとに展開してきた障害学が果たして対話可能であるのかどうかという問題提起がなされた。また、「障害の社会モデル」に関して基本的な了解事項が確認された。続いて、市場理論の基本的成果の説明がなされた後、効率性と公平性の両立可能性や外部性などの問題が指摘され、市場理論だけでは不十分である点が指摘された。車いす利用者のアクセス可能性問題を例として、ネットワーク外部性や補完性といったゲーム理論の考え方が導入された後、制度としての市場の効率性と合理的個人との結びつきは実は弱いものであるという実験結果が報告された。それから、ケイパビリティ・アプローチと「障害の社会モデル」との関連性が論じられ、偏見から差別を行なうのではなく、差別的行動の観察から偏見が生まれることを説明する帰納的ゲーム理論の紹介が行なわれた。最後に、「障害の社会モデル」が個人と社会の二分法に基づいたリベラリズムであることが指摘された。今後の課題として、ベーシック・インカムなどの所得保障制度や、合理的配慮の内実に関して、経済学と障害学が対話と議論を深めていく必要性があることが確認された。


発表後の討論では、まず、ゲーム理論の発達によって制度・慣習・ルールのもつ役割が浮き彫りになり、新しい制度設計のためのツールが準備されてきていることが評価された。また、実証的アプローチと規範的アプローチとの関係について議論され、メカニズム・デザインなどの領域では、規範的目標をどのようにインプリメントするかという形で両アプローチの統合がなされていることが説明された。「障害の社会モデル」がリベラリズムであるという点に関しては、リベラリズムと結びつかない「障害の社会モデル」の可能性が示唆され、そのあり方を今後検討することとなった。


つぎに、川島から「障害者の権利条約の概要」の報告があった。障害者の権利条約は2006年12月13日に採択され、2008年5月3日に発効した。日本政府は2007年9月28日に条約を署名したが、批准はしていない。この条約は、前文と本文50カ条から成る。1~30条は実体規定、31~40条は実施措置、41~50条は最終規定である。この条約の特徴は、3つある。第1は、「三つの意味での混成条約(ハイブリッド・コンベンション)」である。ここでいう三つとは、「自由権+社会権の混成条約」、「無差別+ポジティブアクションの混成条約」、「人権+開発の混成条約」を意味する。第2は、「二つの意味での差別禁止(無差別)」である。すなわちこの条約は、伝統的な直接差別のみならず、「合理的配慮の否定」をも禁止している。このうち、後者の「合理的配慮の否定」は国際法においても、日本の国内法においても「新しい概念」である。第3は、障害者の参加(Nothing about us without us)である。条約策定過程において障害者は積極的に参加し貢献したが、今後は条約上の義務として、条約実施過程への障害者の関与を確保することが国家に義務づけられる。


発表後の討論では、障害者の権利条約が、この研究会で具体的な政策提言を行う際の拠り所になることが確認された。討論の中でこの条約に関して最も大きな関心が集まったのは、障害(者)の概念であった。川島によれば、この条約に定める障害の概念は、WHO-ICF(2001年)の「障害の相互作用モデル」(障害の医学モデルと障害の社会モデルとの統合モデル)ではなく、「障害の社会モデル」を採用している。「障害の医学モデル」によれば、個人はその「インペアメント」によって「不利益」を被る。医学モデルはこれら2つの要素(インペアメントと不利益)を用いて、不利益発生の因果関係を説明するための認識枠組みである。これに対して、これら2つの要素では不利益発生のメカニズムを説明するのは不可能で、3つめの要素(不適切なリアクション)が必要である、とする考え方が社会モデルである。社会モデルによれば、個人はその「インペアメント」に対する「不適切なリアクション」によって「不利益」を被る。ここでいう「不適切なリアクション」は、「バリア」と表現できる。社会モデルは、この3つめの要素の問題性を強調する。


最後に、プロジェクトの今後方向性に関して議論され、ベーシック・インカムなどの所得保障制度や、合理的配慮、自立支援法や介護保険制度などに関連して、応益負担と応能負担の問題などを、障害学・福祉学の視点から問題提起すると共に、経済学による分析を期待するということで了承された。次回は、7月11日(土)に、岡部、中根がそれぞれの問題意識について発表することとなった。
 


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