日時: 9月30日(火) 13:00~18:00 場所: 日本財団ビル2階 第1会議室 発表者: 源河達史氏(新潟大学) 「テクストのヒエラルヒー,権威のヒエラルヒー ― 制度としての教皇権の確立(12世紀半ば) ―」 岡崎哲二氏(東京大学) "Role of courts in economic development: A case of prewar Japan" (with Masaki Nakabayashi) 中林真幸氏(東京大学) 「海上の財産権―近世瀬戸内海における漁場用益権の成立―」 コーディネーター: 瀧澤弘和氏(VCASIフェロー)さる2008年9月30日,日本財団ビル2階第一会議室において,VCASI公開研究会「社会のルールについてIII」が行われた.今回は制度変化を史実に基づき分析している研究として,3つのプレゼンテーションが行われた.
最初の源河達史先生(新潟大学)の「テキストのヒエラルヒー,権威のヒエラルヒー:制度としての教皇権の確立」では,11世紀の「グレゴリウス改革」の後,12世紀半ばに成立した「グラーティアーヌス教令集」がとりあげられた.権威あるさまざまな法源同士の関係をヒエラルヒー的に整理する作業を行っているこの文書を分析することで,教皇がその地位を有する個人とは明確に区別される抽象的な存在として規定されるようになっていくプロセスがつぶさに観察できることが明らかにされた.教皇権におけるpersonとofficeの分離という発想は,corporationなどのように持続が要請される現代の組織形態においても重要な役割を果たしていること,powerを有した主体(教皇)が制定した法が他の法源に優先する有効性を持つという思想は近代法における実定法主義とも関連を持つことなどが議論された.
岡崎哲二フェロー(東京大学)の”Role of Courts in Economic Development: A Case of Prewar Japan”は,明治から戦前期までの県別データを利用して,司法制度の確立と経済発展との関係を計量的に分析するものである.そこでは,「都市化」という要因が司法制度の発展と経済発展とをリンクする重要な要因であるという分析結果が示された.この結果をどのように解釈すべきかを巡ってさまざまな議論が行われた.(報告資料1,報告資料2)
最後に,中林真幸フェロー(東京大学)による発表「海上の財産権: 近世瀬戸内海における漁場用益権の成立」では,江戸期の備中国小田郡真鍋島において,漁場用益権が今日のような排他的漁場用益権に変化していくプロセスが詳細に説明され,魚資源の稀少化,政府の統治,市場機会の存在という3つの要因がこのプロセスに大きな影響をあたえていることが示された.ディスカッションでは,漁場用益権の発展と土地所有権の発展との相違点,漁業の経営形態や技術が与える影響などの論点をめぐって議論がなされた.(報告資料1)
新しいコメントの投稿