さる2009年3月19日、虎ノ門の日本財団ビルにおいて、「 社会のルールについてIV: 障害と経済について」が行われた。
今回の「 社会のルールについて」は,東京大学に拠点をおくREAD( Research on Economy and Disability) において松井彰彦フェローが代表者として推し進めているプロジェ クト「学術創成:総合社会科学としての社会・ 経済における障害の研究」の研究成果の一部を報告していただき、 VCASIの場を活かして学際的な交流を行うことを目的として行 われた。
報告者は、以下の通りである。
松井彰彦氏(東京大学:VCASIフェロー)
金子能宏氏(国立社会保障人口問題研究所)
川越敏司氏(公立はこだて未来大学:VCASIフェロー)
両角良子氏(富山大学)
関口洋平氏(東京大学大学院)
長江亮氏(早稲田大学高等研究所)
また、当日はVCASIから青木昌彦主宰、西條辰義フェロー、 戸矢理衣奈フェロー、瀧澤弘和フェローなどが参加したほか、 学際研究や障害者問題に関心を持つ約30名ほどの聴衆が集まり、 熱気にあふれる討論が行われた。
前半は、松井氏、金子氏、川越氏の報告であった。松井氏からは、 障害者手帳保有率の県別データを例に、 障害者 がスティグマを恐れている可能性があること、日本が「 普通」 の人という概念に極めて強く依存した仕組みを作っている社会で あ ることなどが報告された。また、 日本の社会保障関連費のGDP比は18.6%でOECD平均( 20.5%)よりも若干低いだけなのに対し、 障害関係支出のGDP比はOECD平均が2.3% なのに対して0.7%に過ぎないという事実を用いて、 障害問題が日本においてまだまだ認知されていないということも明 らかにされた。金子氏からは、 日本における障害福祉の歴史的展開についての説明とともに、 バリアフリー化が一般家計と障害者家計の限界効用に与える影響を 推計する実証研究が報告された。次いで、川越氏は、 近年 注目されつつある「ベーシック・インカム」( 老若男女を問わず, 各個人に無条件で一定額の所得を保証する所得保障制度) の制度導入がもたらしうる効果を、モラル・ ハザードと逆選択の両面から検討する実験研究の報告が行われた。
後半の最初の報告では、関口氏が、 障害者に対して考えられる所得保障が社会選択論の観点から見てど のような性質を持つのかという理論的分析の結果を報告した。 障害の度合の評価に関してある程度の社会的合意が存在する場合で も、障害の等級に基づいて所得保障を行うルールが、 通常望ましいとされる規範的性質を満たさないことが指摘された。 両角氏からは、 特別支援高等部の卒業生の就職率が緩やかに低下しつつある事実が どのような要因によるものかを注意深い計量経済学的分析によって アイデンティファイする研究の報告がなされた。最後に、 長江氏からは「障害者の雇用の促進等に関する法律」 があまり遵守されていない状況について、 2003年に企業名が公表されるという事件が企業のコンプライア ンスにどのような効果を持ったのか、 同法で施行されているメカニズムが効率性の観点から問題があり、 企業に負担を負わせている可能性があることを示唆する実証研究の 結果が報告された。
最後に、こうした研究を今後どのように学際的に行っていくのか、 認知が不足している障害の問題をどのように発信していくべきか等 々に関する議論が行われた。
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