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「コーポレーション」フォーラム第二部

■第2部 パネル: 社団組織・思想の比較歴史

コーディネーター: 中林真幸
パネリスト: 源河達史・池上英子・季衛東・酒井啓子


第2部では、日本・西欧・イスラーム・中国それぞれにおいて歴史上成立した社団組織のありようを、比較の観点から議論した。日本について、まず中林氏が、経済史の立場から近世の社団組織とそれを取り巻く統治機構との関係を主題に、続いて池上氏が歴史社会学の立場から、比較の観点でみた近世の社団組織を主題にそれぞれ報告した。次いで西欧について源河氏が、11世紀に始まる教会改革における団体概念の構築を主題に論じた。中国についての季氏の報告では、伝統中国の社団組織の特徴を抽出した。そしてイスラームについては酒井氏が、前近代イスラーム社会における社会組織につき報告した。
 

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(A)日本
中林氏の報告は、近世期の統治機構と市場を統治する社団組織の連関を論じたものである。中世の分権的な統治機構の下では、座による非匿名的な市場統治が支配的であったが、戦国期には領主が参入と契約の自由を認めるとともに司法業務を提供する楽市楽座制が普及した。これを継承した江戸幕藩体制下においては、財産権保護のもと匿名的な市場取引が拡大した。司法制度の充実は大坂をはじめとする幕府直轄都市において特に顕著であったが,こうした法の支配による市場統治を充実させる政策を一定程度,転換させたのが、将軍徳川吉宗の主導した享保の改革における「株仲間」の成立であった。「株仲間」は非匿名的な統治を委ねられる一方、その反対給付として町奉行所の執行力によって地域独占を公認された。司法行政に中間団体の非匿名的な統治を組み込むことによって,拡大する司法支出の抑制をはかったのであるが,そのことによって匿名的な市場経済のさらなる成長は抑制されることになった<資料>


 

一方池上氏の報告は歴史社会学の成果に基づき、社団組織が、公的なものpublicnessをその内に形成する側面、従前の組織を模倣する側面に焦点を当て、その政治発展の影響を論じる。統一権力がなく自立した社団組織が群生した中世期、社団組織としての武士団はパブリックな側面を持つ儀式を発展させる。これに対し近世、社団組織の間接的統御を借りた徳川複合国家においては、公は入れ子状に包摂される。この時期、サムライのイエや村落組織など、多様な社団組織が見られた。中間団体は、幕藩体制の要求と地域利益の二重性と相克のなかにあった。また、弱い紐帯をベースとする、趣味を媒介とした多くの組織が存在した。<資料>

(B)西欧
源河氏の報告は、中世ヨーロッパにおけるローマ教会をコーポレーションという観点から論じるものである。このとき氏は、(1)オフィスとパーソンの分離、そしてその延長上に、(2)団体とその成員たる個々人との区別が歴史上重要であるとし、集団がこれを担う具体的個人から切り離された抽象性・持続性を獲得し、権利義務の主体となったとき、これを<団体>universitasと呼ぶ。こうした団体概念が機能する素地がつくられた11世紀においては、司教<座>sedeがその内実において団体を意味する概念として観念された。各地の司教座の統合を目指すグレゴリウス改革の過程では、同時に推進された対内的改革とその反発のなかから、ローマ教皇を頂点とする階統的な教会理解に対抗する、合議体としての教会理解が生み出されていった。

(C)中国
季氏によれば、中国の社団組織は(1)家族主義側面と並んで、(2)社会交換に特徴づけられた市場メカニズムという側面を持つ。ここで、青木氏のコーポレーションの定義を中国の秩序に照らすと、(a)血縁関係による規定ゆえ個人を超えることが難しい(b)コーポレーションの自発性と上下秩序の矛盾・ルールと互酬性の矛盾を内に抱えているという特徴が見いだせる。伝統中国の社団組織には、個人的次元においては信頼を軸にした秘密結社が、永続的次元においては会館が、中間においては持分のネットワークがそれぞれ見られた。近代中国では、たとえば株式会社設立において、社団組織への国家の管理や財産保有の手段という側面を強調する現象がみられる。国家管理に対しては経済開放期に自由化のなかで、伝統的社団組織の特徴をある程度復活させた「関係的資本主義」が生まれたと、季氏は指摘する。


(D)イスラーム
酒井氏の報告は、前近代イスラーム社会において、イスラーム法が経済発展に与えた影響を巡る論争を紹介・検討するものである。1924年のカリフ制廃止以前のイスラーム社会における法治システムにおいては、法学者によるイスラーム法体系の解釈が、ひとつの公共善の現れである共同体の、すべての領域を規定していた。イスラーム法が経済発展を阻害したと主張する伝統的議論は、(a)イスラーム法における利子の禁止、(b)イスラーム共同体の一体性、(c)分割相続に伴う財産規模縮小、(d)ワクフの存在をその根拠に挙げる。これに対し、このような停滞論に挑戦する近年の議論は、(a)実態としては高利の禁止に留まる、(b)共同体の一体性はフィクション、(c)資産分割を回避する土地共同所有の部族慣行、(d)商館など、ワクフを利用した利潤追求活動の存在を根拠に掲げ、イスラーム社会において存在した、ヨーロッパとは異なる経済観念の存在を指摘する。<資料>

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