はじめに、川越から論文"Economics, Game Theory and Disability Studies: Toward a Fertile Dialogue"の報告があった。
はじめに、近代経済学のような、近代の自律した理性的な個人を前提にする世界観をもった学問と、そうした価値観への批判をもとに展開してきた障害学が果たして対話可能であるのかどうかという問題提起がなされた。また、「障害の社会モデル」に関して基本的な了解事項が確認された。続いて、市場理論の基本的成果の説明がなされた後、効率性と公平性の両立可能性や外部性などの問題が指摘され、市場理論だけでは不十分である点が指摘された。車いす利用者のアクセス可能性問題を例として、ネットワーク外部性や補完性といったゲーム理論の考え方が導入された後、制度としての市場の効率性と合理的個人との結びつきは実は弱いものであるという実験結果が報告された。それから、ケイパビリティ・アプローチと「障害の社会モデル」との関連性が論じられ、偏見から差別を行なうのではなく、差別的行動の観察から偏見が生まれることを説明する帰納的ゲーム理論の紹介が行なわれた。最後に、「障害の社会モデル」が個人と社会の二分法に基づいたリベラリズムであることが指摘された。今後の課題として、ベーシック・インカムなどの所得保障制度や、合理的配慮の内実に関して、経済学と障害学が対話と議論を深めていく必要性があることが確認された。
つぎに、川島から「障害者の権利条約の概要」の報告があった。障害者の権利条約は2006年12月13日に採択され、2008年5月3日に発効した。日本政府は2007年9月28日に条約を署名したが、批准はしていない。この条約は、前文と本文50カ条から成る。1~30条は実体規定、31~40条は実施措置、41~50条は最終規定である。この条約の特徴は、3つある。第1は、「三つの意味での混成条約(ハイブリッド・コンベンション)」である。ここでいう三つとは、「自由権+社会権の混成条約」、「無差別+ポジティブアクションの混成条約」、「人権+開発の混成条約」を意味する。第2は、「二つの意味での差別禁止(無差別)」である。すなわちこの条約は、伝統的な直接差別のみならず、「合理的配慮の否定」をも禁止している。このうち、後者の「合理的配慮の否定」は国際法においても、日本の国内法においても「新しい概念」である。第3は、障害者の参加(Nothing about us without us)である。条約策定過程において障害者は積極的に参加し貢献したが、今後は条約上の義務として、条約実施過程への障害者の関与を確保することが国家に義務づけられる。
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