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第17回VCASIセミナー「経済理論よどこへ行く-2009年の定点観測」(神取道宏先生)

2009年9月9日、VCASIではゲーム理論、ミクロ経済理論が専門の神取道宏氏(VCASIフェロー、東京大学経済学部教授)を迎え、第17回VCASIセミナー「経済理論よどこへ行く---2009年の定点観測」を開催した。参加者はVCASIフェローの青木昌彦(比較制度分析)、池尾和人(経済学)、宇井貴志(ゲーム理論、ミクロ経済学)、岡崎哲二(経済史)、加藤淳子(政治学)、戸矢理衣奈(歴史学、社会心理学、ブランディング)、安田洋祐(ゲーム理論、ミクロ経済学)をはじめ、経営学、経済学、ゲーム理論、国際関係論、(応用)数学、政治学、脳神経科学、法学などを専門とする実務家、研究者、学生など70名あまりに及んだ。


神取氏の講演は、1939年に当時ともにHarvard大学に所属する若い研究者だった数学者Stan Ulamが経済学者Paul Samuelsonに向けて発した”Name me one proposition in all of the social sciences which is both true and non-trivial”という問いを皮切りにはじまった。この問いを前にSamuelsonを困惑し沈黙させるしかなかった経済理論は、その後どのような変遷をたどったのだろうか?そして、Ulamの問いに対する答えは見つかったのだろうか?


特にミクロ経済理論に注目した場合、40年代から70年代にかけては一般市場均衡理論、70年代から90年代にかけては情報の経済学・ゲーム理論、90年代以降は実験・行動経済学の隆盛が目につく。これらの推移の過程では、当初(完全競争)市場に限られていた分析対象が政治・法制度や慣習、規範などを含む幅広い社会経済問題へと拡大する一方、その分析対象の拡大に伴って一般市場均衡理論、情報の経済学・ゲーム理論が共通して前提としていた主体の利己的合理性の仮定の疑わしさが浮き彫りにもなった。利己的合理性の仮定を緩め、理論と行動データとの整合性を重視する実験・行動経済学への近年の注目は、そのひとつの自然な帰結である。


とはいえ、実験・行動経済学がミクロ経済理論に新展望をもたらしえるかは依然として不透明なままだ。利己的合理性の枠に留まらない人間行動の統一像は描かれておわず、統一像を描くことがどれほど難しいのかさえよくわかっていないからである。ある理論が正しいと言える確たる証拠は見つかったか?理論の現実への工学的応用が成果を上げたか?といった問いに対するこれまでの断片的回答を足がかりにしつつ、理論・実証・実験・応用の各方面の研究を進めていくことが必要になるだろう。



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