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第6回 インクルーシブな社会を目指した障害者政策の構築プロジェクト研究会

2010年1月9日(土)、「インクルーシブな社会を目指した障害者政策の構築」プロジェクト、第6回の研究会が開催された。参加者は、フェローの川越敏司(公立はこだて未来大学複雑系科学科)、プロジェクト・メンバーの岡部耕典氏(早稲田大学文化構想学部)、川島聡氏(東京大学大学院経済学研究科)、中根成寿氏(京都府立大学福祉社会学部)、長江亮(早稲田大学高等研究所)、佐藤孝弘(東京財団)、そしてRAの鈴木和尭であった。

今回は、一橋大学経済研究所の吉原直毅氏をお招きして、「政策基礎理論としての厚生経済学:限界と今後の可能性」という題で、厚生経済学や社会的選択理論に関する概要と展望をお話しいただいた。はじめに、ベンサムやピグーにはじまる「旧」厚生経済学が基数的効用と効用の個人間比較可能性を前提としていたのに対し、その科学的根拠の希薄性を批判した「新」厚生経済学は、序数的効用と効用の個人間比較不可能性を前提とするパレート原理に基づいて社会状態の比較を行なう点が明らかにされ、この「新」厚生経済学の立場から「厚生経済学の基本定理」が導出されることが示された。しかし、パレート原理だけでは厚生比較が不十分な場合が多々あることから、カルドアの補償原理や集計的補償変分、社会的余剰といったパレート原理の拡張的含意を有する代替案が検討された。しかし、これらの代替案でも、厚生のランキングは概ね国民所得の大小関係に帰着され得るため、本来的にはこうした貨幣的価値に還元し得ない広義の厚生・福祉概念の観点からは、福祉指標としては不十分な点があることが指摘された。こうした論点を踏まえた非厚生主義的な評価基準として、アマルティア・センは「機能と潜在能力」理論を提唱した。また、人々が当該社会で生活する上で必要不可欠なベーシック・ニーズを満たしていることが、厚生主義的福祉概念に基づく社会的評価を展開可能とするにあたっての前提と位置づけるべき事が指摘され、社会的余剰の最大化とベーシック・ニーズの充足化の両方の達成を目指す多元主義的・折衷主義的なアプローチが提唱された。また、今後の厚生経済学は、こうした非厚生主義アプローチによって進められるべきであるとして、最近の研究が紹介された。

講演後の議論では、カルドアの補償原理などでは、ある状態Aを出発点とすると状態Bが望ましく、状態Bを出発点とすると状態Aが望ましくなるといった社会的決定の循環性の問題があるということや、ベーシック・インカムはベーシック・ニーズの充足化にとっての重要な一手段と考えることができるが、同時に、個々人の内的資質の違いに起因して、一般に個々人によって実現可能な機能水準が違ってくるので、ベーシック・インカム政策のみでは各人の享受する福祉に関する望ましい基準を満たすには不十分かもしれない、という議論や、また、福祉の状態やベーシック・ニーズの程度や必要性に関する公共的意思決定に臨んで、いかに当事者の熟慮に裏付けられた道徳的意思を反映させつつ行うかという重要な問題が存在する等の議論がなされた。

次回は、2月に、中根が知的障害者のセルフアドボカシーに関する最近の動向について発表することとなった。