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第5回VCASI公開フォーラム『Between Corporations and Families』

日時: 
2010年4月5日(月) 午後3:30~午後6:30
場所: 
日本財団ビル2階(http://www.vcasi.org/access.html)
発表者: 
青木昌彦(VCASI主宰、スタンフォード大学名誉教授)
鶴光太郎(RIETI上席研究員;VCASIフェロー)
玄田有史(東京大学社会科学研究所教授)
概要: 
かつて『日本的経営』とか,従業員も含めた利益共同体としての『日本企業』の特性などといったことが,おおいに語られたことがあった.コーポレーションという存在を,単に株主の価値最大化の道具と見るのではなく,従業員を含めた連携的な認知のシステム,そこに埋め込まれた集団的な規範などという側面にも注目するならば,確かにそうした議論にも,一定の意味があったといえよう.だが,いわゆる経済のグローバル化や情報化による会社企業への競争的圧力,また人口構成の急激な変化による人々の価値観の多様化や揺らぎ,その他のさまざまな要因が絡まって,従来の企業観,雇用制度,労働観は深刻な挑戦にさらされている.上に述べたような側面をも持つコーポレーションという場と,家族というようなプライベートの場のあいだを,人々がバランスよく,統合的に生きるために,会社のアーキテクチャーやガバナンス,雇用制度はどう進化しうるか,政策がなし得ることはなにか.こうした問題や関連するテーマを,これまでの学術的なディスシプリンの枠にとらわれずに議論していきたい.

タイムテーブル:

3:30~3:50 青木昌彦(VCASI) 趣旨説明



3:50~4:35 鶴光太郎(経済産業研究所):
      「雇用システムと家族:労働市場二極化の視点から」(仮題)



4:35~5:10 玄田有史(東京大学社会科学研究所):
      「『居場所がない』ということ」(仮題)



5:10~5:20 休憩



5:20~6:30 全体ディスカッション



【 Report 】

 201045日,日本財団ビルにおいて,第5VCASI公開フォーラム「Between Corporations and Families(会社と家族の間で)」が開催された.

  今年度からVCASI3つのテーマを掲げて活動を展開するが,そのテーマの1つが青木昌彦主宰がリーダーとなる「Between Corporations and Families(会社と家族の間で)」である.今回のフォーラムは,このテーマについてのキックオフ・ミーティングとして位置づけられ,現代日本の労働市場動向との関連で,若者たちが抱える問題について研究している玄田有史氏(東京大学)と,労働市場改革の提言を積極的に行っている鶴光太郎氏(経済産業研究所)とをお招きし,三者による問題意識の交流が行われた. 

 開催意図:いわゆる経済のグローバル化や情報化による会社企業への競争的圧力,また人口構成の急激な変化による人々の価値観の多様化や揺らぎ,その他のさまざまな要因が絡まって,従来の企業観,雇用制度,労働観は深刻な挑戦にさらされている.こうした中で,従業員を含めた連携的な認知のシステム,そこに埋め込まれた集団的な規範などという側面を持つコーポレーションという場と,家族というようなプライベートの場のあいだを,人々がバランスよく,統合的に生きるために,会社のアーキテクチャーやガバナンス,雇用制度はどう進化しうるか,政策がなし得ることはなにか.こうした問題や関連するテーマを,これまでの学術的なディスシプリンの枠にとらわれずに議論する. 

内容:

  まず,青木主宰からは,昨年度来のプロジェクト「コーポレーション」の成果の概要が紹介された.そのうえで,近年は,ケネス・ポメランツ,グレゴリー・クラークなどの著作が広く読まれるようになり,人口動態の変化が経済や社会に対して持つ含意が注目を浴びていること,それが新たな比較論の可能性を拓いていることが指摘された.また,少子高齢・人口減少に直面する日本において,コーポレーションと家族形態(人口動態)の持続可能性の問題がますます重要となっていくと考えられるが,この問題は社会的・経済的・政治的にも,学問的にもまだ解かれていない問題であることが指摘された.

  続いて,鶴光太郎氏からは,「雇用システムと家族:労働市場二極化の視点から」という発表が行われた.鶴氏によれば,従来,日本の雇用システムと家族システムとは一体的安定性を持っており,経済の柔軟性にも貢献していた.しかし,家族のかたちの変容や,「後払い型」の賃金システムの維持が困難となっていることなどから,現在,労働市場と家族の関係が変化しつつある中で,今日脚光を浴びている格差問題,非正規雇用問題,労働市場二極化問題も,雇用問題のみならず家族という視点からも捉えなおす必要があるという.さらに,そうした観点からRIETI(経済産業研究所)「派遣労働者の生活と求職行動に関するアンケート調査」の報告がなされた.この調査の暫定的結論としては,(1)非正規雇用の幸福度は所得・資産の状況をコントロールしても,雇用や家族の状況に影響を受けること,(2)雇用面では,例えば,雇用契約期間の長期化や非自発的非正規雇用者の正社員化が重要であること,(3)家族面では,家族を持つことが重要であること,などがあげられるとの報告がなされた.

  次に,玄田有史氏が「『居場所がない』ということ」という発表を行った.まず玄田氏は,今日の若者の不安感を象徴する言葉として「居場所がない」という言葉があげられるとし,この言葉が,グラノヴェッターの言う”weak ties”に対して若者が持つ共感と失望の念と関連しているのではないかと指摘した.その上で,その背景には,実は1980年代から始まっていたと推測される家族を中心とする社会内の紐帯の変化があることを,各種の統計を用いて論証した.それでは,今後どのような人材配分が労働市場とコーポレーションで実現するのか,どのような政策を講じるべきなのか.玄田氏は,正規労働者と非正規労働者の「二極」体制も,全員を正社員にする「一極」体制も困難があり,現状の正規と非正規の「間隙を埋める」かたちで多様性を確保する「多極」が望ましいとする.すなわち,非正社員と正社員の間を埋める形で,准正社員としての働き方が積極的に評価されるべきだという.現在,こうした線に沿う形の望ましい変化(非正規の中長期雇用化による「准正社員」,「正社員」,「プロフェッショナル」からなるコーポレーションへの変化)も見られつつあり,政策的には,こうした動きを邪魔しないことが必要であるという主張がなされた.

  その後,会場からの質疑応答も含め,全体での討論が行われた.

 



参考文献:
M. Aoki (2010), Corporations in Evolving Diversity: Cognition,
Governance and Institutions (Clarendon Lectures in Management Studies),
Oxford University Press, Oxford, UK.

玄田有史(2010),『人間に格はない---石川経夫と 2000年代の労働市場』,ミネルヴァ書房.

玄田有史(2005), 『仕事の中の曖昧な不安---揺れる若年の現在』,中央公論新社.

鶴光太郎(2009), 『労働市場制度改革---日本の働き方をどう変えるか』,日本評論社. 

山口一男(2009), 『ワークライフバランス 実証と政策提言』,日本経済新聞出版社.

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※過去のイベントについては以下のURLをご覧ください.

http://www.vcasi.org/event_list

ビデオあり: 
no