Language: 日本語 English

鈴木健氏「社会システム2.0 ~なめらかな社会とその敵~」(第2回VCASIブレインストーミングセッション)

日時: 
2010年4月12日(月)18:00-21:00
場所: 
日本財団ビル3階A会議室
発表者: 
鈴木健氏(東京大学大学院総合文化研究科/情報社会学)
概要: 
情報技術を用いて、この社会をバージョンアップすることを試みたい。活版印刷技術が数百年かけて近代社会に様々な革命をもたらしたように、コンピュータやインターネットの登場は、社会に革命的な変化をもたらすと言われてきた。しかし、インターネットが社会に広く利用されるようになって15年たつが、未だにこうした変化は起きていない。これはむしろ当然ともいえる。アラン・ケイの言う通り、300年スパンでしか本質的な変化は起きないのかもしれない。本研究では、アラン・ケイの「未来を予測する最良の方法は未来を発明することである」という有名なテーゼに基づき、社会システムを発明することを試みる。具体的には、貨幣システム、投票システム、軍事システムなどがその対象となる。伝播投資貨幣PICSY、分人民主主義 divicracyといった発明がどのように国家、組織、個人といったものの仮想化を支えていくか、理論、数理モデル、思想、分析、背景などを含めて総合的に議論する。近代社会を成立させた私的所有、自他分離、友敵区別の概念を乗り越えることによって、近代社会の単なるマイナーバージョンアップではなく、メジャーバージョンアップを目指したい。

参考情報:「なめらかな社会の距離設計」(鈴木健) http://ised-glocom.g.hatena.ne.jp/ised/20060114

第一部 なめらかな社会





第二部 PICSY





第三部 Divicracy




第四部 伝播社会契約論





【イベント報告】
 2010年4月12日、VCASIは、鈴木健氏(VCASIフェロー,東京大学)による第2回ブレインストーミングセッション「社会システム2.0 ~なめらかな社会とその敵~」を開催した。セミナーには30人ほどの参加者が出席した。今回のセッションは、政治哲学、情報科学、生命科学、経済学、政治学、安全保障理論などを越境する内容となり、参加者も多方面から集まった。当初3時間の予定であったが、質疑応答含めて4時間におよび活発な議論が行われた。鈴木氏が2000年ごろから展開しているこの10年間の研究の総括となるような内容であり、発表は4部構成で行われた。
 
 第一部では、最初にベルリンの壁のような国家の壁がなぜできてしまうのかが問題提起された。カール・シュミットの友敵概念は、実は「私的所有の生物学的起源」という生命誕生以来40億年の歴史があることがムービーによって紹介され、問題の根深さを指摘された。このようなシステムの壁を取り除くのは困難を極めるが、コンピュータやインターネットはそうした壁を取り除くことができるかもしれないという。活版印刷の発明が、宗教革命、市民革命、科学革命など社会制度に大きな影響を与えたように、コンピュータやインターネットの登場が、社会にどのような革命的な変化をもたらすかが議論された。鈴木氏は、アラン・ケイの「未来を予測する最良の方法は未来を発明することである」という有名なテーゼに基づき、社会システムを再発明することを試みる。具体的には、貨幣システム、投票システム、社会契約論、軍事システムなどがその対象である。そして、相互に出入りがしにくい社会をステップな社会、摩擦がまったくないのっぺりとした社会をフラットな社会とすると、その中間のなめらかな社会を目指すという全体の指針が提示された。

第二部では、具体的に貨幣システムとして、伝播投資貨幣PICSY(Propagational Investment Currency System)が紹介された。PICSYは、全てが投資の貨幣であるという新しい貨幣システムである。取引をすると行列上にデータが蓄積される。その固有ベクトルからその人の全社会での貢献度を計算し、貨幣の購買力として利用することができる。PICSYにおいて、組織は単なるインターフェイスにしかすぎず、貨幣論的に組織を仮想化することができる。そのため、PICSYは世界規模の人事評価システムともいえる。世界貨幣としての構想以外にも、企業の人事評価システムとして現実に応用されているという。PICSYは、とても新規な貨幣システムであり、かつ多くの興味深い性質をもっているため、聴衆からはPICSYのもつ性質を理解するためにたくさんの質問が投げかけられた。

第三部では、PICSYを応用した伝播委任投票システムが提案された。伝播委任投票システムは、委任をさらに別の人に再委任することができる投票システムである。1票を分割して矛盾した投票をしても、投票の社会ネットワークを通して票が伝播して、最終結果が導かれる。このシステムによって、政党や派閥、利益団体を仮想化、透明化し、万人が誰でも少しずつ政治家であるような社会システムを考えることができる。世界政府の投票システムとして構想考されているが、企業や組織などで部分的に導入することもできるという。こうした社会では、人々は複数のコミュニティに同時所属し、アドホックに帰属を切り替えることが可能だ。フランスの哲学者ドゥルーズの指摘する通り、個人(individual)はもはや分人(dividual)であるともいえるため、鈴木氏は、個人民主主義から分人民主主義(dividual democracy)への移行が起きるという。現代の政治的閉塞感からしても、間接民主制のもつ問題は次第に明らかになっており、鈴木氏の提案は時宜を得ていたため、多くの聴衆の関心を集めた。

第四部では、社会契約論が見直される。社会契約は、ホッブズ、ルソー、ロックらによって議論されてきた概念であるが、国民国家を成立させるための仮構にすぎない。実際に社会契約をするようなシステムを考え、社会契約をプログラミングする世界観が紹介された。そのような社会契約は、自然言語と人工言語がハイブリッドに結合したあたらしい法律言語によって可能になる。ライフログ技術とユビキタス技術が結びつき、法は規制するものではなく、自動実行されるものとなるという。軍事システムでも同様の応用が可能であり、敵と味方を区別しない社会システムが可能なのかという問いへの鈴木氏の中間回答が示された。
 
 最後に、質疑応答において、名古屋大学の大屋氏(VCASIフェロー、法哲学)からは、鈴木氏の提案は次世代の有力な社会構想であり、強力な思想であるが故に対抗的な思想が生まれるのではないかという質問があった。これに対し、鈴木氏は、保守思想がエドモンド・バークの「フランス革命についての省察」から生まれたように、近代啓蒙思想と保守思想は双子であり、今回も同様の対抗馬が立つことは当然予測されるし、思想の健全性や発展性からみても好ましいとの応答があった。大屋氏からは、近代の擁護者として対抗的な思想を作りたいとの意思表明があり、VCASIらしいスケールの大きな社会構想について意見が交換される会となった。 

ビデオあり: 
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