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瀧澤弘和先生「科学哲学の今日的段階の先駆けとしてのFriedman (1953)」(第1回VCASIブレインストーミングセッション)

日時: 
2010年2月8日(月)
場所: 
日本財団ビル3階A会議室
発表者: 
瀧澤弘和(中央大学経済学部、東京財団)
概要: 
(下記、レポートに掲載)



レポート:


 2010年2月8日,VCASIは,瀧澤弘和氏(VCASIフェロー,中央大学)をお招きし,第1回ブレインストーミングセッション「科学哲学の今日的段階の先駆けとしてのFriedman (1953)」を開催した. 
 
開催意図:
 
 ミルトン・フリードマンが1953年に書いた論文「事実解明的経済学の方法論」は,多くの論争を巻き起こしながらも,今日に至るまで,経済学者たちに最も大きな影響力をもった方法論的論文であり続けてきた.
 しかし,ここ数十年の間に経済学が実験経済学,認知心理学,神経科学の大きな影響を受けて変化してきたことにともない,近年,一部の経済学者や哲学者たちの間で,経済学方法論の根本的見直しが必要かどうかを巡る論争が盛んに行われている.この論争の起点となったグルとピーゼンドーファーの論文は,標準的経済学の立場から,方法論的革新の必要性を主張する神経経済学者たちを批判したものだが,そこで用いられている論法には,フリードマン論文が影響しているといわれている.
 
 また,2003年には,フリードマン論文の刊行50年を記念して,経済学者と哲学者たちがその現代的意義を議論するためにコンファレンスを開催し,そこで発表された論文の論文集が刊行されてもいる(Maki 2009).
 
 そこで,現代的観点からフリードマン論文を読み返すと何が見えてくるのかを改めて論じるというのが,このセッションの目的である. 

内容:
 
 瀧澤氏からは以下のような主張が述べられた.
 
 フリードマン論文は,この論文が書かれた当時の時代背景に影響されて,論理実証主義的な制約を多く負っているが,科学者の実際の研究活動にも配慮した豊かな科学観を展開している部分もある.このうち後者の部分だけを取り出してみると,最近展開されている科学哲学の一流派である,「理論の意味論的捉え方」というアプローチを取っているものとして,現代でも十分解釈に耐えるものである.
 
 同論文が執筆されたきっかけは,ホールとヒッチが行ったアンケート調査で浮かび上がった企業行動が,経済学で通常仮定されている利潤最大化行動に反していることに対して,経済理論(新古典派経済学)に対する何らかの方法論的正当化が必要とされたことであった.こうしたことから,同論文には,特定の経済学(新古典派経済学)の擁護を目的としている部分があるが,現時点で読み返すと,そうした特定化を排した一般的な科学論・理論論として解釈することが可能である.

 また,このようにして,特定の経済学的内容を捨象してフリードマン論文を再解釈するとき,そこから直ちに,「現在の認知科学や神経経済学の影響を受けた経済学研究は経済学研究にとって無関連であり,これを排除すべきである」という結論が得られることはない.

 その後は全体での質疑応答になり,瀧澤氏によるグルとピーゼンドーファー論文の解釈はこの論文の意図を誤読しているなどの意見が出されるなど,議論の応酬が行われた.


 参考文献:
Caplin, A. and A. Schotter (2008), The Foundations of Positive and Normative Economics: A Handbook, Oxford University Press, Oxford: UK.

Friedman, M. (1953), The Methodology of Positive Economics, in Essays in Positive Economics, Chicago University Press, Chicago, pp.3-43.

Maki, U. ed. (2009), The Methodology of Positive Economics, Cambridge University Press, Cambridge: UK.

Samuelson, P. (1963), Problems of Methodology---Discussion. American Economic Review, Vol. 53, pp.231-236.



ビデオあり: 
no