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青木昌彦氏「雁行形態パラダイムVer.2」VCASI公開研究会

日時: 
2010年10月13日(水) 17:30-19:00
場所: 
日本財団ビル2F 第3会議室
発表者: 
青木昌彦氏(比較制度分析/VCASI,東京財団/http://www.vcasi.org /fellow/青木-昌彦)
概要: 
Present a simple, but new framework for the comparative development of East Asian economies which integrates demographic-economic-institutional factors. Introduce the concept of the Flying Geese Paradigm Ver 2.0. and dynamic complementarities of developmental strategies in this paradigm. Discusses the policy agenda of Japan which faces the unprecedented phase of population aging.
発表資料につきましては、添付のスライドを御覧ください。




2010年10月13日,青木昌彦主宰によるVCASI公開研究会「雁行形態パラダイムVer.2」が開催された.青木主宰による報告がなされた後,寺西重郎氏(日本大学,VCASIフェロー)が報告に対するコメントをし,その後,フロアも含めて活発な議論が行われた.

〈青木主宰の報告〉
本研究会において提起する雁行モデルは,人口,技術,経済,政治,社会規範を統合的にとらえようとする,東アジアの比較制度・発展モデルである.雁行モデルのVer.1.0とVer.1.1ともいえる赤松要氏の「技術移転モデル」や大来佐武郎氏の「開発援助政策」とは,人口,技術,経済,政治,社会規範を統合的に捉えようとする点で異なるものである.今回の研究会の趣旨は,こうしたモデルを用いることで,東アジアにおける今日の国際関係ゲームや,日本の次世代のアジェンダに対して新しい観点を提起し,議論を喚起することにある.

日本,中国,韓国,あるいは東アジア社会一般を見ると,そこには共通の社会・経済的背景が存在する.それは,土地を「保有」して耕作する小農が広範に存在するところから出発して,アーサー・ルイスのそれに近いモデルのもとに工業化を達成してきたことである.

このメカニズムは,次のような恒等式を用いて説明することができる.Yを実質GDP,Nを人口,Lを労働力人口とし,y=Y/Nを一人当たりGDPとする.また第一次産業の労働生産性をPA,第二次,第三次産業の労働生産性をPMS,農業雇用比率をαとすると,
y=L/N[αPA+(1-α)PMS]
という恒等式が成立する.上に略述した経済成長のメカニズムは,一方で人口学的要因によって,L/Nが上昇するとともに,他方では労働生産性(PMS))の上昇によりαが低下するプロセスであったのである.また,これらのことを支えるさまざまな社会的・制度的要因があったことも忘れてはならない.

たとえば,L/Nの上昇過程が「人口配当」を生み出してきたこと,第二次,第三次産業の生産性が上昇するとともに, PMS /PAの値が上昇し,それがαを低下させてきたこと,さらにその後は第二次,第三次産業の生産性が自律的発展を示すことによってyが継続的に成長してきたことなどの共通したパターンを,日本,中国,韓国におけるデータから伺うことができる.

こうしたプロセスをまとめると,停滞的なαとyという「準マルサス的段階」,αの継続的低下とyの高度成長という「準ルイス的段階」,PMSの自立的発展によるyの継続的成長が見られる「ポスト・ルイス段階」,さらに来たるべき局面としての「低労働参加段階」とに分けて理解することが可能であろう.さらに,当然ながら各国での相違はあるものの,こうした発展段階にはある程度それに対応した政治制度,社会規範などが見られる(下にリンクしたPPTファイルを参照のこと).

こうした経済の見方は,資源賦存量や規模の経済性にのみ注目してきた新古典派的な観点を超え,国際ゲームにおける各国の経済・社会開発戦略の間の動学的な補完性を視野に収めるものとなるだろう.

また,日本はこの新しい雁行のトップにあって,高度高齢化という未知の世界に進むわけであり,消費税ひきあげによるサステイナブルな社会保障の再設計・若年・女性労働者の就職機会の円滑化などの世代間の融和,移民規制の緩和・自然融和の農業再構築を伴った自由貿易などによる,新しい[開国」が必要となることだろう.

〈寺西重郎氏のコメント〉
  • 青木氏の報告は,雁行形態論と,アジアにおける人口ボーナス論とを結合したところがユニークである.
  • アジアの雁行形態の特色としては,委託加工による輸出代替であり,輸入代替が不十分なことと,直接投資の増大による輸出産業の振興による経済発展であることである.
  • ルイス・モデルについては,農工間の労働移動に関して,小野旭氏,南亮進氏が需要要因で説明可能としているのに対して,林文夫とエドワード・プレスコットの両氏は,戦前民法による長子相続制が農業からの人口移動を制限していたのだが,戦後はこの制約が消滅したために急激な人口移動が生じたとしている.日本も中国もスラムがほとんど発生していいない.中国には戸籍制度による人口移動の規制がある.この二国に関する限り,供給要因が大きいのではないか.
  • 関連する問いとして,なぜアジアは高貯蓄・高成長なのに,人々の老齢に対する貯えが少ないのかという問題がある.

〈青木氏の応答〉
  • ルイス・モデルで需要要因,供給要因ということが提起されたが,私としては社会規範が持つ影響を重視している.
  • 最初のところで述べたように,ここで提起する雁行形態論は,単に従来の雁行形態論と人口ボーナス論を組み合わせたというのではなく,それに対応する社会制度の問題を考えるところに独自性があると考えている.
ビデオあり: 
no
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