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「障害の社会モデルから見た政策的インプリケーション~法学,障害学,社会福 祉学,経済学の対話」(第9回VCASI公開研究会)

日時: 
2010年11月6日(土) 14:00-16:00
場所: 
日本財団ビル3階 東京財団A会議室
発表者: 
川越敏司(経済学/公立はこだて未来大学,VCASIフェロー)
川島聡(法学/東京大学大学院経済学研究科)
中根成寿(社会学/京都府立大学公共政策学部)
概要: 
VCASIの2009年度プロジェクト「インクルーシブな社会を目指した障害者政策の構築」では,2006年12月に国連総会で採択された障害者の権利条約の批准を控えた日本で,どのように障害者政策をデザインしていくべきかについて,経済学者,社会学者,法学者,障害学者が膝をまじえて議論してきました.その中心的なコンセプトは,障害者の被っている不利益の原因を個人の医学的症状ではなく,社会のあり方にもとめるという「障害の社会モデル」です.このプロジェクトでは,この枠組みを共通基盤として,ベーシック・インカム,ダイレクト・ペイメント,アファーマティブ・アクション,応益負担と応能負担といった政策的諸問題について,学際的な検討をしてきました.今回の研究会では,今までの議論を総括し,今後の課題を探ります.

プログラム(予定)

14:00-14:05 趣旨説明(川越敏司)
14:05-14:35 川島聡氏(法学)報告
14:35-15:05 中根成寿氏(社会福祉学)報告
15:05-15:35 川越敏司氏(経済学)報告
15:35-16:00 質疑応答および全体討論

報告文
2010年11月6日(土)、「インクルーシブな社会を目指した障害者政策の構築」プロジェクト最終報告書の発表をかねた公開研究会が開催された。プロジェクト・メンバーの川越敏司(公立はこだて未来大学,VCASIフェロー)、川島聡(法学/東京大学大学院経済学研究科)、中根成寿(社会学/京都府立大学公共政策学部)の3人が成果発表を行い、参加者と討論を行った。

まずはじめに法学者の川島から、「障害者権利条約前文(e)に定める障害の概念は社会モデルのことを意味しているか」(Q1)と「障害者権利条約の効果的な実施に関して障害研究(障害学)にはどのような役割を果たすことが期待されているか」(Q2)という二つの問題提起がなされた。Q1について川島は、前文(e)は英国社会モデルではなく、米国社会モデルを採用しているとした。米国社会モデルにおける障害の定義とは、「インペアメントと社会障壁との相互作用で発生する当事者の不利に障害という言葉を与え」(障害の形式的定義)、かつ「医学モデルに対抗するために社会障壁の問題を強調する」(障害の実質的定義)ものをいう。川島は社会モデルは、それ自体がひとつの「理論」(物事の体系的な説明)なのではなく、重要な知見や洞察を得る際の助けとなる手段、すなわち「発見的手段」である旨言及した。次にQ2について、障害研究(障害学)が障害者権利条約の効果的な実現に貢献するためには、社会学に加えて経済学や法学等の知見を総動員した学際研究が必要であると述べた。川島は、障害研究(障害学)のメインストリームにおいて社会学は大きな役割を果たしてきたが、法学や経済学はあまり役割を果たしてこなかったことを指摘した。

つぎに社会学者の中根から、障害者へのケア提供の主体としての家族に着目した場合、家族の提供するケアが無償で無制限的であることが指摘された。家族はその構成員である障害者に対し愛着をもち、持てる限りの時間をケアに費やす内発的動機を持つ存在であるが、同じケア・サービスを提供するにしても、第3者によって提供されるサービスが有料であるのに対し、家族の提供されるサービスは無償である点で公平ではないと指摘された。その上で、家族によるサービスに対し適切な対価を支払う手段としてダイレクト・ペイメント制度の価値があることが指摘された。また、知的障害者福祉を考えるに当たっては、その自己決定を支援する制度が重要であるとして、集団が集団を支援するセルフアドボカシー組織についても言及された。

最後に、経済学者の川越から、「障害の社会モデル」の立場から主張されている様々な障害者政策に関する経済分析の結果が報告された。まず、近代的な世界観・個人観をベースにする経済学と、そうした近代を否定した思想から生じた障害学の対話可能性について議論された後、アマルティア・センの提唱するケイパビリティ・アプローチに基づき、各国の障害者福祉の程度を「障害の社会モデル」にもとづいて評価する障害者HDIの可能性が提起された。また、障害者自立支援法に関して議論となった応能負担・応益負担に関して、最適所得税論での議論をふまえて、応能負担が正当化可能なことが示された。また、ダイレクト・ペイメントに関しても単純な経済モデルで正当化可能なことが示された。所得保障制度ベーシック・インカムには、労働インセンティブに与える効果に疑問があることが示された。障害者雇用制度をはじめとするアファーマティブ・アクションについては、労働の場面では肯定的な結果が、教育の場面では否定的な結果が得られていることが報告された。最後に、合理的配慮の提供に関しては、誰もが将来障害者になりうるというユニバーサリズムの観点から公共財としてとらえていくことで活路が見出せるのではないかと示唆された。
ビデオあり: 
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