Language: 日本語 English

伊藤伸泰氏「生物の進化と多様化のメカニズム」(第31回VCASIセミナー)

日時: 
2010月11日10日(水)18:30-
場所: 
日本財団ビル2階第8会議室(http://www.vcasi.org/access.html)
発表者: 
伊藤伸泰氏(統計力学、計算物理学/東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻/http://aph.t.u-tokyo.ac.jp/~ito/)
概要: 
生物多様性年なる今年は「多様性」について耳にする機会が増えたようである。「多様性(diversity, variety)」とは、さまざまなものがある状態を意味することばであるが、多様さにもいろいろとあるように思われる。いろいろなものが、まったくばらばらに同居しているようにみえるものもあれば理路整然と並んでいるものもある。生物生態系の多様さと、人類の文化の多様さ・店にならぶ百貨の多様さとには、どれほどの類似・相異があるのであろうか。本講演では、多様性を示す数理模型を使ってこうした問題を考えるための基礎を議論したい。多様さを生み出し維持してゆくことができる系を「多様系(diversifying system)」と捉え、多様系の多様性を議論したいのである。例えばこれまでに、まったく乱雑な多様系や、個々が強く相関した臨界的な多様系は知られている。しかし一方、多様系の典型と考えられる生物進化の解明ははじまったばかりである。生物生態系の進化は、引き延ばされた指数関数(stretched exponential function)で特徴付けられることが明らかとなった。この関数はコンビニエンスストアの商品棚に並ぶ商品にも観察されており、経済・社会現象への新しいアプローチを拓くものと期待したい。
参考文献
Y. Murase, T. Shimada, N. Ito and P. A. Rikvold, J. Theor. Biol. (2010) "Random walk in genome space: A key ingredient of intermittent dynamics of community assembly on evolutionary time scales."

Y. Murase, T. Shimada, N. Ito and P. A. Rikvold, Phys. Rev. E. (2010) "Effects of demographic stochasticity on biological community assembly on evolutionary time scales."

Y. Murase, T. Shimada and N. Ito, New Journal of Physics. (2010) "A simple model for skewed species-lifetime distributions." 




報告文
2010月11日10日、VCASIでは統計力学、計算物理学がご専門の伊藤伸泰氏(東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻)を迎え、第31回VCASIセミナー「生物の進化と多様化のメカニズム」を開催した。

まず、伊藤氏は物理学の主流が抽象的理論から数値実験に移りつつあるという見通しを述べた。10ペタフロップス(1秒間に10の15乗回浮動小数点数演算ができる能力)の性能を持つ次世代のスーパーコンピュータを用いれば、アボガドロ数を超える分子の運動方程式を計算できるようになる。今後の計算機の進化を考慮に入れれば、数モルの物体からはじめて大腸菌のような単純な生命までを分子の運動方程式で計算し、シミュレートできる道筋が見えてきたのだ。

次に、今後物理学が目指すべき目標として、何らかの個から構成される系に多様性が生まれるシステムの解明を提示した。そのような方向性の一つとして食物連鎖における生物多様性のモデルについての研究が発表された。1920年代に発表された先行研究であるLotka-Volterra方程式では種が増える状態は安定でなく生態系に多様性は生まれない。このことはLotka-Volterra方程式では捕食者と被食者がそれらの個体数の積に比例する頻度で相互作用する ことに起因する。伊藤氏はこの点を修正し、捕食者と被食者の相互作用の頻度が捕食者に対する被食者の割合に基づいて決まるような非線形方程式を導いた。 このモデルは種が増えても安定(size-invariant)である。さらに化石データに裏付けられた生物種の誕生から絶滅までの期間が「引き延ばされた指数分布」(stretched exponential distribution)に従う という事実に触れ、このモデルがそれを再現することを示した。

最後に、引き延ばされた指数分布の生物種以外への応用について具体例が挙げられた。Takayuki Mizuno, and Misako Takayasu, Prog. Theor. Phys. Supplement (2009) “The Statistical Relationship between Product Life Cycle and Repeat Purchase Behavior in Convenience Stores.” によると引き延ばされた指数指数分布はコンビニエンスストアにおいて商品が陳列棚に場所を確保しつづける寿命に観察されるという。

参加者からは引き延ばされた指数指数分布の他分野への応用可能性に関して、長時間にわたり活発な議論が提起された。
ビデオあり: 
no