Language: 日本語 English

池上高志氏「Artificial Life and Real Life」(第33回VCASIセミナー)

日時: 
2011年1月13日(木) 17:30-
場所: 
日本財団ビル3階A会議室(http://www.vcasi.org/access.html)
発表者: 
池上高志氏(複雑系、人工生命/東京大学総合文化研究科/http://sacral.c.u-tokyo.ac.jp/~ikeg/)
概要: 
人工生命は「生命とは何か」を構成論的な方法で理解しようという研究アプローチである。そのため、人工生命は本質的にハードサイエンスを志向している。この理解を深めるために、まず人工生命の主要な4つの潮流を概観し、これらの研究が一体何を目指しているのか、そのモチベーションを明らかにする。その上で、講演者の研究のうちいくつか(マシンとテープの共進化、ゲームのダイナミクス、ターンテイキング、オイルドロップレット、MTMなど)を紹介しながら、この20年の間でどういう進展と自己批判があったかを振り返る。最後に、artificial life larger than biological lifeというコンセプトで最近取り組んでいる人工生命の新しい方向性やアート活動について議論したい。


報告文

私は複雑系を研究しているが,そのバックグラウンドにあるのは非線形非平衡システムである.これをもとにして,生命とか意識とか,今までの物理学や生物学で解けなかった問題を考えていこうということである.これまでの科学は線形でものごとを理解しようとしてきたが,非線形ということで,それでは捉えられないものがあるという観点からいろいろな現象を理解しようとするということである.非平衡現象というのは,時間がある状態である.ビデオをとって逆回ししてもわからないものが平衡状態で,気づくものが非平衡状態である.プリゴジンの6角形などのように,システムはエネルギーの流れとかがあるときには,構造を創る.散逸構造とは,非線形システムがあり,そこに何かの流れがあると,システムが創る構造である.これを非線形非平衡システムというわけである.生命や知性は非平衡にあるものだと思う.また,時間というものを正面から取り入れた,本当の意味で変化するダイナミクスを考えている学問は,複雑系という学問だけだと思う.これだけでも重要なメッセージである.複雑系というのは,時間とダイナミクスをもとに物を考えることだと思う.

今は,複雑系について2つのことを考えている.
1.生命は自己組織化というが,実際には難しい.そこで考えているのが,デザインである.デザインはアンチ科学だと思う.これが科学のどこかに入ってくるのが重要なのではないかと考えている.
2.物理では理想極限という操作があるが,私は全部入り極限に興味がある.全部が入ってこないと理解できないものがあるはずである.これがマクシマリズムという考え方である.

1.Chemical Self-Moving Autopoiesis

センサー・モーター・カップリングをオートポイエーティックなシステムで創れるかというのが,この論文のモチベーションである.通常の非平衡システムだと条件が外から与えられるが,このシステムでは,そういう条件を自ら作り出している.これは無水オレイン酸と水酸化ナトリウムでできるシステムである.これを観察していると油滴が多様なパターンで動くことを発見した.対流が起こるという意味ではプリゴジンの六角形に近いが,今回は自分で対流が起こる条件を創り出して,ケミカル・ポテンシャルの差を創り出して,差を維持しながら渦が出来て,渦ができることでますますその差が維持されている.オートポイエーシスのダイナミック・バージョンである.化学反応は,流体力学と化学とのインタラクションからなる複雑なものであることがわかる.複数の油滴からなるシステムは,相互に寄り添うようなインタラクションも示す.油滴は1回ならば生命のように自己複製することが観察された.

2.MTM(Mind Time Machine)

人工生命というのはコンピュータの中で生命現象をつくるのだが,それを現実世界に引き出したい,また,解析するためのモデルではなく,実験し観察するためのモデルを創ろうと考えた.それで作ったのがマインド・タイム・マシーンである.
このもともとのモチベーションは,ニュートンの時間と違うベルクソンの時間を作り出したいということであった.そのときに,マクシマリズム・デザイン原理に従い,自分の知っているものをすべて入れた.生命現象は自己組織化するが,すぐには創れない.初期条件が複雑なのか,よくわからない.しかし,初期条件のデザイン可能性は今までのモデルではあまり考えられてこなかった.物理現象でデザインということはあまり考えられていないが,僕はそれを考えたかった.
また,現実世界のシステムでは何が起こるかわからない.どこかに穴があくわけである.しかし,全部入りのシステムであれば,その穴に対処できるだろう.そのことを考えたいので,マクシマリズムで行きたいのである.こうした複雑なシステムで必要なデザイン原理についても知りたかった.
これは半分アートでミュージアムにインストールした.MTMは,昼間は落ち着いた感じだが,夕方になると元気になる.朝になると死んでいる.それを見ている人や,アーティストとインタラクトする.データを観察すると,雨の日には駄目なことがわかる.天候に影響されるわけである.
私はマシーン・コンシャスネスというものがあると思っていて,人工マシーンにも意識はつくれると思っているが,そのための一歩ともいえる.

ビデオあり: 
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