Language: 日本語 English

南本敬史氏「脳はいかにモチベーションをコントロールしているか?」(第35回VCASIセミナー)

日時: 
2010年2月17日(木)17:00-
場所: 
日本財団ビル3階A会議室(http://www.vcasi.org/access.html)
発表者: 
南本敬史氏(脳神経科学/http://researchmap.jp/minamoto//放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター)
概要: 
モチベーションが高いと,同じ行動でも早く正確になるように,モチベーションは我々の行動を司る重要な脳プロセスである.モチベーションがいかに制御されているかを知ることは,生命の原理を探る上でも,我々の社会生活を豊かにする上でも非常に重要であると考える.我々は,動物の報酬獲得行動のモチベーションが,①予測される報酬,②その報酬を欲する程度,の2要因で正確にコントロールされていることを見いだし,その脳メカニズムを探ってきた.また,最近はうつなど動機づけの障害のメカニズムについても研究を進めており,これらの取り組みについて併せて紹介する.
参考文献
Minamimoto T, La Camera G, and Richmond BJ. Measuring and modeling the interaction among reward size, delay to reward, and satiation level on motivation in monkeys. J Neurophysiol 101: 437-447, 2009.
Minamimoto T, Saunders RC, and Richmond BJ. Monkeys quickly learn and generalize visual categories without lateral prefrontal cortex. Neuron 66: 501-507, 2010.
Simmons JM, Minamimoto T, Murray EA, and Richmond BJ. Selective ablations reveal that orbital and lateral prefrontal cortex play different roles in estimating predicted reward value. J Neurosci 30: 15878-15887, 2010.

報告文

2011年2月17日、VCASIは神経科学・脳科学が専門の南本敬史氏(独立行政法人放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター、独立行政法人科学技術振興機構さきがけ)を迎え、第35回VCASIセミナー「脳はいかにモチベーションをコントロールしているか?」を開催した。

「生命体を行動へ駆り立て、目標へ向かわせるような内的過程」であるモチベーションは、生命体の行動を形作る最重要の要素の1つだろう。南本氏らの研究は、「行動の原因となる生命体内部の動因(drive)と、その目標となる外部の誘因(incentive)」からモチベーションが脳内で計算される仕組みを理解することを目指すものだ。研究対象はサル、研究手法は神経活動記録・神経薬理・生体イメージングなどの脳神経科学的手法による。この研究戦略の背景には、たとえば甲状腺機能低下症(Hypothyroidism)が鬱や疲労感の主要因の1つであることからもわかるように、モチベーションの発生が非常に生理的な現象であるという推測がある。

そのような研究の1つとして、南本氏らは以下の実験を行った。まず、サルに非常に容易なある行動を学習させる。その上で、サルが学習した行動を適切に実行すると大小様々な量の報酬(水)を長短様々な遅延を伴いながら与えるという課題を繰り返す。(報酬量と遅延時間はあらかじめ提示する。)複数のサルにこの繰り返し課題を行わせたデータを分析し、モチベーションの代理変数としての「行動を適切に実行した頻度」が他の変数とどのような関係にあるか、そしてその関係を産み出す脳内機構はなにか、を明らかにすることが目的だ。

いま、ある特定の課題について、Dを報酬が得られるまでの遅延時間、Rを行動を適切に実行すれば得られる報酬量、Sをその課題に取り組んでいるサルがそれまでに得た報酬の量(充足率)としよう。D, S, Rがある値を取るような課題において、サルが学習した行動を適切に実行できなかった頻度(エラー率)を考え、Eで表す。これらの変数のデータを素朴に観察すると、そこには

E=(1+kD)/aRf(S) (kとaは正の定数、f(S)はSのある減少関数)

という単純な関数で非常によく近似される関係があることがわかった。

では、この変数間の関係はどのような脳内機構によって産み出されているのだろうか?この疑問に答えるため、南本氏らはまず前頭前野の局所脳切除による活動制御を行い、前頭前野の機能の有無が上記の変数間の関係を作り出す上で果たす役割を分析した。その結果、前頭眼窩野(Orbital Prefrontal Cortex)が報酬量(R)と遅延時間(D)の評価、外側前頭前野(Lateral Prefrontal Cortex)が評価された報酬量と遅延時間の統合(aR/(1+kD)の計算)に不可欠な役割を果たしていることを発見した。特に、外側前頭前野の投射先である尾状核(Caudate Nucleus)内の単一の神経細胞の活動に報酬量と遅延時間の統合情報が表現されていることもわかった。一方、神経細胞ネットワークの大域的活動のポジトロン断層法(Positron Emission Tomography)による分析の結果、サルがそれまでに得た報酬の量(充足率, S)については、前頭眼窩野および腹側線条体(Ventral Striatum)の活動との間に相関が見られた。最後に、報酬量に対する感受性(a)にはドーパミン、遅延時間に応じた割引率(k)にはセリトニンの体内放出量が深く関与していることが示唆された。


ビデオあり: 
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